緊急声明 言わない・言わせない「日本人ファースト」

先月行われた参議院議員選挙における選挙運動の中、「日本人ファースト」のスローガンを前面に押し出した政党の候補者らが、街頭で声高に演説をしました。
外国人の人権問題に取り組む支援団体などは、この状況に危機感を抱き、7月8日「排外主義の煽動に反対するNGO緊急共同声明」を発表し団体署名を募り、私たち全外教もこれに名を連ねました。第二次締め切りの7月18日までに、賛同団体数は1143団体にのぼり、各政党と日本政府へ送付しました。短期間の呼びかけだったにもかかわらず、これほど多くの団体から賛同が寄せられたのは、巷に流れる差別的言動によって、外国人や外国にルーツのある方々が傷つけられることへの強い危機感の表れです。
このような「日本人ファースト」の主張をする政党が勢いを増しているとの報道が連日なされる中、「外国人問題」を争点にあげる動きが他の政党にも広がりました。選挙期間中の7月15日には、政府も「外国人との秩序ある共生社会推進室」を発足させました。国民の間に鬱積している不安、不満、困窮についての怒りの矛先を外国人に向ける道具として、この言葉が用いられる傾向が強まっているのではないでしょうか。政治家が自らの責任の所在を、自分たちの無策や失政、利権の構造に向けずに「そと」にそらそうとして選挙期間中に流された差別的言動によって、日本社会の中で外国人差別が強化され、共生社会が破壊されてしまうことを私たちは恐れています。
2016年の「ヘイトスピーチ解消法」は、差別を解消する教育とそのための取り組みを定めています。「日本人ファースト」は、「日本人を優先する」という意味ですが、同時に「日本人以外は後回しにする」にも聞こえます。排外主義や外国人差別を助長、あるいは正当化しかねないニュアンスをはらんでおり、日本の国内に暮らしている数百万人の外国人や日本以外にルーツのある人たちへの支援や権利の保護を軽んじるということにつながる危険性があります。
そもそも日本では、外国籍住民には選挙権すらありません。選挙を前に恐怖で身を縮めて過ごした在日韓国朝鮮人の友人は、「駅前の演説が聞きたくなくて遠回りして帰宅した」「ここに暮らしていていいのだろうか?と考えると、もう、何もかも頑張ることができない」と言いました。私たちの仲間の在日の教員からも「勤務校の経路にある駅前で、候補者が「日本人ファースト」や「外国人問題」と大声で唱えていた。自分も辛かったが、外国人だけでなく日本人の生徒にも聞かせたくなかった。」との声があがっています。

そして、今私たちが一番恐れているのは、子どもたちへの影響です。
トランプ政権が「史上最大の強制送還作戦」を掲げているアメリカでは、この5月に南部テキサス州で11歳のヒスパニック系の女生徒自ら命を断ったというニュースが流れました。彼女が亡くなる数週間前から、学校内ではヒスパニック系の子どもたちに対し「強制送還されるぞ」とか「移民税関捜査局に通報する」などといった言葉が投げかけられていたと伝えられています。
子どもたちは、大人たちの姿を見ています。候補者らによる「日本人ファースト」という言葉と、差別的な言動等が街にあふれ連日報道されたことにより、子どもたちは「ああ、こういうことを言ってもいいんだ」と学習してしまいました。今は夏休みですが、学校が始まった時にこれを口にする子どもも出てくるでしょう。差別の言葉により外国人や外国にルーツのある子どもたちの心は深く傷つけられます。口にした側は差別する意図もなく何の気なしに発したとしても、それは刃となって他者を傷つけるということを子どもたちに訴えなければなりません。
「日本人ファースト」を主張する勢力は、「日本人より外国人のほうが生活保護を受けやすい」「外国人が増えて犯罪が増加している」などと言いますが、様々なファクトチェックによって、これらは否定されています。そもそもマイノリティである外国人が圧倒的なマジョリティである日本人より優遇されているなどということはありえません。ましてや人間に1番や2番といった格付けや分類ができるはずもありません。
多文化共生の学校・社会を実現するために、正しい知識に基づき差別を見抜く目を養う教育が、今こそ求められています。
教育に関わるすべての関係者は、子どもたちとその家族が、ヘイトスピーチ・ヘイトクライムにさらされることがないように、共に協力し合い、排外主義に立ち向かっていきましょう。

2025年8月9日

全国在日外国人教育研究協議会
第44回全国在日外国人研究集会・岡山大会参加者一同



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