各教育委員会からの回答

私たち全外教は、前回の参院選の選挙活動において流された外国人への差別をあおる言葉が特に子どもたちに与える影響を危惧しています。そこで署名サイト「change.org」で「『日本人ファースト』から子どもたちを守りたい。」と題した署名を募りました。 8月9日に開始したこの署名は、8月31日の第一次集約までに5000筆を超える賛同をいただきました。(賛同はその後も増えています。) そのリストを各地の教育委員会に送ると共に、以下の4項目について回答を求めました。

1、「日本人ファースト」という言葉は「ヘイトスピーチ解消法」で定めるヘイトスピーチにあたるものと私たちは考えますが、貴職ではどのようにとらえていらっしゃるか、その理由を含めてご回答ください。
2、学校は児童・生徒にとって安心・安全な場でなくてはなりません。「日本人ファースト」など差別をあおりかねない言葉が児童・生徒の耳や目に入ることは、あってはならないと私たちは考えます。貴職はどのようにお考えでしょうか。
3、「日本人ファースト」などの言葉で児童・生徒が傷つく(傷つける)ことのないよう、貴職が学校現場に対してどのような働きかけをしていかれるか(考えていらっしゃるか)ご回答ください。
4、「日本人ファースト」などの言葉による被害が出た場合の対処について、学校現場に対してどのような指示(働きかけ)をしていかれるか(考えていらっしゃるか)ご回答ください。
※ 以上は、差別的な言動(表現)に関しての要求であり、特定の政党に関して云々するものではありません。

そして今日12月15日までに47の教育委員会から回答がありました。ここにそれを公開します。 回答いただいた各教育委員会の担当者様、ご協力ありがとうございました。
さて、この回答を総覧し、私たちは以下のように考えています。 質問項目の1、「日本人ファースト」という言葉は本ヘイトスピーチに該当するのではないか、との質問については多くの教育委員会の回答は「ヘイトスピーチに該当するかについては、文脈や意図、使用状況によって異なる」といった主旨でした。これについては、大きな異論はありません。この言葉を使った政党の代表も「ただの選挙運動のキャッチコピー」と語っています。
ただし、私たちの周囲の外国籍の方からは「選挙中の演説などで深く傷ついた」との声が上がっています。選挙運動での表現の自由は守られるべきとは考えますが、人を傷つけるような言葉が垂れ流されている現状、特に児童生徒に与える影響については危機感を持っています。公職選挙法の見直しなどの抜本的な規制が必要と考えます。
項目の2つめについて、京都市などからは「差別的な言葉が児童・生徒に触れることは、差別や偏見を助長する恐れがあり、容認されるべきではありません。」との回答があり、これには意を強くしています。しかし、複数の教育委員会から「政治的中立のために回答を控える」との回答があったことには大きな問題を感じます。
学校の中で「日本人ファースト」という言葉が差別やいじめ以外の文脈で流れることがありえるのでしょうか? たとえ発した児童生徒に差別の意図はなかったとしても、それを耳にした児童生徒は深く傷つけられます。近年いじめについては、被害者である子どもが心身の苦痛を感じた場合には「いじめ」と捉えるべき、との定義がなされています。差別についても、被害者の立場に寄り添った対応がなされるべきです。
非常に残念なことですが、選挙運動中に子どもたちは「こういうことを言ってもいいんだ」と学んでしまいました。そしてその言葉を差別の意識はなく使ってしまう児童生徒が出てくる危険性も高まっています。「政治的中立」を理由に教育委員会が態度を保留していては、現場の教員はどのように対処できるのでしょうか。中には「選挙運動等において使用された言葉(表現)に対する回答は差し控えさせていただきます。」(福岡県など)との回答もありましたが、この論理では「外国人犯罪が増加している」などの明らかなデマさえも否定できないことになってしまいます。
項目3および4についても大切な視点を欠いた回答が多く見受けられました。特にいじめ対策と同列に考えている(滋賀県など)のは大きな問題です。前述した通り、いじめと同様に被害者の立場に寄り添うことは大切ですが、それと同時に「差別と闘う」姿勢を教育に携わる全ての者が率先して示すことが求められます。
差別的な言動が起こらないためにも、被害が出てしまった時の対応でも、そうした言動の原因を探り、それを正すこと、加害・被害の生徒だけでなく学校全体の問題として対処することが大切です。
そして、それをただ学校現場任せにするのではなく、行政の責任において、教育委員が率先して範を示すことが求められると考えます。

各教育委員会からの回答のpdfは、こちらからダウンロードできます