はじめに

 あなたの知らない、私も知らない、あなたたちや私たちが生まれるずっと昔から、人類はこの地球に住んでいました。そして人類は、空や海、山や川、森や野原、他の星たちや太陽、いろんな自然の恵みの中で、他の動物や植物とともに、この星で生き続けてきました。人間が言葉を話し、文字を使うようになり、いろいろな知恵が発達してくるとともに、人間と人間が助けあい、協力しあうことが大切になってきました。人間は一人では生きることが出来ません。他の多くの人間と助けあったり争ったりしながら、今まで生きてきました。同じ民族(言葉や歴史、肌の色や顔かたちが似ている人々のグループ)どうしだけではなく、他の民族とも助けあったり、教えあったり、時には争いながら歴史がつくられてきたのです。
 今、日本には外国にルーツ(祖母や祖父などの親族のつながり)を持っていたり、日本の言葉や文化以外のものを自然と身につけてきた人たちが、たくさん住んでいます。これらの人たちと日本人がともに生きていく上で、大切なことがいろいろあります。その大切なこととは何なのかを知る上で、日本と外国の関係の歴史を学ぶことは重要であると、私たちは考えています。

 あなたの学校に、在日韓国・朝鮮人の友だちがいるという人も多いと思います。本当はいるのだけれど、その人のことをよく知らないだけという場合もあるかもしれません。日本に住む外国人の中で一番人口が多く、住んでいる期間が長いのが、在日韓国・朝鮮人です。しかし、日本に住む在日韓国・朝鮮人の多くは、自分の本当の名前(本名・民族名)では生きていけなくて、日本人ふうの仮の名前(通名・日本名)で生きています。自分の本当の名前を使えない苦しさについて、一度真剣に考えてみて下さい。
 2001年にヒットした、アニメ映画「千と千尋の神隠し」を見た人は、千尋(ちひろ)が名前を奪われて千(せん)という名でしか生きられない世界から、どのようにして抜け出してきたのかの物語だったことを思い出して下さい。映画を見ていない人は、もしビデオなどで見る機会があれば、そのへんにも注目すると物語がよく理解できるでしょう。本当の名前を奪われて「神隠し」にあったように別の世界で生きなくてはならなくなった千尋は、最後には元の世界にもどることが出来ました。しかし、昔の日本は韓国・朝鮮人の名前を奪い、今もその頃の名前でしか日本では生きていけないと考えている韓国・朝鮮人もいるのです。差別の歴史が名前を奪い続けているのです。
 未来に向かって生きていくあなたには、過去の歴史や日本と外国との関係の本当の姿を知ってもらいたいと思います。過去の日本の過ちを知らなければ、また同じ失敗を繰り返すおそれがあるからです。そして、日本の歴史の中で一番深いつながりを持っている外国は、韓国・朝鮮です。日本と外国の関係、日本人と外国にルーツを持つ人との関係を知るための第一歩として、まず韓国・朝鮮と日本の歴史を、この本で一緒に学んでいきませんか。あなたが、この本に興味をもち、もっと深く知りたいと考えた時、自分で調べたり、勉強したりできるような工夫もあちこちにしてあります。
 世界中の人たちが仲良く助けあって生きていくための勉強をしていくのは、大切なことです。そのためには、今あなたの学校にいる外国人の友だちのことを、その歴史や文化、そして日本とのかかわりを学ぶことが、第一歩として一番大切なことではないでしょうか。そんな学習の手引きとして、この本を使っていただければうれしいです。

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