高取昌二著 『同性愛者として coming outの軌跡』

この本には、「多様なセクシュアリティについて考えよう。性教育や人権教育にその視点をとり入れよう」というメッセージがこめられています。
セクシュアリティということばは、まだまだ一般に浸透していません。そこで、はじめてこの問題にふれる人のための概説として、第1部「多様なセクシュアリティを考えるために」を書きました。教科書的な知識ですから、退屈だと思われた方は、第2部から読んでいただいたらと思います。
第2部「coming outの軌跡」は、主に1997年の秋から2000年の春にかけて、僕自身がまわりの人たちにカミングアウトしていく過程で書きためた文章を再構成したものです。自分が同性を好きだと気づいてから、長い時間をかけて、そのことと向き合えるようになっていったこと、文化祭の教職員劇をきっかけに十数人の同僚教員にカミングアウトしたこと、生徒たちへのカミングアウトとその後について、という流れに沿ってまとめました。
第3部「AIDSと同性愛」では、朝日新聞の「論壇」に掲載された文章を材料に、米国での経過や過去の歴史にふれながら、AIDSと男性同性愛の関係について、考えました。
教職員をはじめ、できるだけたくさんの方々にこのメッセージが伝われば幸いです。


カミングアウトとは、自らのあり方と向き合い、それを言語化し、周囲の人に語ることで、人間関係をつくりかえていく作業です。長い準備期間を経て、教職員劇以降、事態は急速に展開しはじめました。そこには、心の奥に閉じこめてきたたものが堰を切ったかのごとく、ふつふつとわきあがる高揚感、もっとわかってほしいという期待、今まで見えていなかった心の深みに向き合わざるを得ないしんどさ、微妙な心の揺れと痛みがありました。ともすれば感情の洪水にのみこまれてしまいそうになりながら、周囲の人に話を聞いてもらい、さらには、ひたすら文章を書くことで踏みとどまっていたように思います。
そんななかで、珠玉のように大切なことどもが心の底にしみこんでいきました。自分のしゃべっている言葉をちゃんと信じることができているという感覚、自分の求めているものは何かをはっきりさせて、自らの手でつかみにいくこと、そしてなにより、人間とは信じるに値するものだという確信。
たくさん書いた文章を読んで温かいコメントをくださったみなさんに支えられて、一冊の本がまとまりました。不十分な点も多々あると思いますが、ひとまずこれが到達点です。まわりで支えてくださったすべてのみなさんに感謝をこめて。

2000年7月10日 高取昌二
「はじめに」より



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